天リフ超会議U30に出場しました

TL; DR

glasnsciです。天リフ超会議U30に出場しました。講演内容を文字に起こしつつ、講演の感想を述べたいと思います。

天リフ超会議とは

天リフ超会議とは、天文メディア……いえ、Webメディアの天文リフレクションズが計画・運営する、天文ファンを招いて公演してもらうというテーマでおこなっている会議です。今回は30歳以下の主に20代を主体にした会議というテーマで、ワタクシもお声がけいただきました。

不肖ぐらすのすち、全国1億のむくつけき天文ファンの皆様の前でお話させていただきました。下記リンクに告知概要と、大編集長に書いてくださった発表抜粋を示します。ここから下は、発表内容を文字情報に起こしていきます。

reflexions.jp

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星鍋動画の話をしました。

星鍋動画の定義と動画として残す理由

講演では星鍋動画についてお話しました。これまで本ブログには星鍋動画は一度登場しています。空の下でを作る(食べる)様子を撮影した動画ということです。おそらく2018年頃からM&MさんAramisさんらが星鍋写真を発表し始め、ここ3年で一定の地位を築きつつあります。

aramister.blog.fc2.com aramister.blog.fc2.com

私も天体観測遠征の記録としてこのような写真を残したいなと考えましたが、先駆者がいる中で同じことをやっても仕方がありません。どうせやるならブルーオーシャンに突っ込みたい。そのように考えるのが人情だと思います。

ほんだら、動画にしたらええでっしゃろか。という反骨精神もありました。が、そもそも、写真と比べて動画はいくつか有利な点を有しています。

  • 写真は場面の切り取りであるのに対して、動画は経時変化する映像の連なりでること
  • 写真はストーリー性を持たせるのには一定の技量が必要なのに対して、動画ではストーリー性をもたせるのが比較的容易であること
  • 音声情報を有すること

また、これらの点から、次のメリットが生まれます

  • 視聴者が受け取る情報量が莫大となること
  • 音声情報や音楽と映像合わせることによって印象的な映像としやすいこと

撮影ファイルの容量が大きくなり管理や編集が大変であるという欠点を除けば、どのような遠征であったかという記録を残すには動画は最適な手段であると言えます。

これまでの星鍋動画

「星鍋動画」とYoutube上で検索してヒットするのは、切削の「楢葉町天体撮影遠征|星鍋を食べる様子を撮影する」と、大顧問の撮影した「ならはで星鍋」しかありません(2021年3月28日現在)。

www.youtube.com fornax.hateblo.jp

www.youtube.com snct-astro.hatenadiary.jp

撮影している人がすくない、非常に希少な天体撮影のジャンルなので、母数が少ないです。が、共通点を探すとこれまでの作品は「星鍋」「天体撮影記録」をロードムービー的にまとめたものであると言えるでしょう。

星鍋動画ではどのようなカメラを使うべきか?

天体撮影、天体観測は通常、光害のない・影響の少ない夜が暗い地方に赴いて行うものです。そのため、星鍋動画は必然的に夜暗い場所での撮影になります。当然、星鍋動画を撮影するカメラにもそれ相応の機能が求められます。

動画を撮影可能なカメラには大別して写真用カメラ(スチル機に動画機能を付与)と動画用のカメラ(=シネカメラ)があります。概してスチル機の動画機能は貧弱でしたが、2010年代からセンサー性能が上がるにつれて、まずはセンササイズが小さく熱的・読み出し速度的な制約が小さいマイクロフォーサーズで動画機能が普及しだしました。やがてはソニーがαシリーズ、特にα7シリーズで親の敵でも撮るかのように大量の動画機能を充実させはじめたため、現在は各社フルサイズカメラの動画機能がどんどん充実しつつある過渡期にあたります。

さて、星鍋動画を撮影するカメラを選別するにあたっては以下の機能を搭載したカメラを選ぶべきだと思います。

  • 高感度特性
  • HLG撮影
  • 10bit
  • 4:2:2

一般に読み出しが断続的に60フレーム/s程度ある動画では排熱が大きな問題となりやすく、撮像素子の画素数が大きいほど顕著になります。そのため動画撮影を主目的においたカメラは40MP以上あるような高画素機とは異なり、膨大な画素数の読み出しを行わないことによって排熱を抑える傾向が強いです。画素数が少ないとノイズも少なくなりやすく、その分感度を上げることが容易になります。

また、HLG撮影(Hybrid Log Gamma撮影、またはLog撮影など)や10bitでの撮影ができると、後処理が断然楽になります。写真ではRAW撮影しますよね。写真のRAWは14bitのものが多く、リニア画像なので撮影後の後処理耐性が非常に強いのですが、動画で14bitの撮影なんてやろうとしたらまあ大変1。ただでさえ動画は容量が大きいのにRAW撮影なんてしたら、4TBなんてあっという間に消費しちゃいます。しかし、だからといってRAWじゃないMOVやMP4で撮影すると、映像部分はjpegでの撮影になってしまいます。jpegのビット深度は8bit。あまりに階調がないため、そのままでは後処理をすると容易にハイライトやシャドーが破綻したり、色が飽和したりしてしまいます。そこで、ビット深度を10bitにすることで後処理耐性を確保します。

しかしそれでもまだまだノンリニアjpeg画像では後処理耐性が低いです。HLG撮影の詳細は開発者ではないので詳しく知らないのですが、各社 ①ゲインのシャドーを持ち上げて、画面全体の輝度差を小さくする、②ガンマカーブのシャドーを上げ、ハイライトを下げて、輝度差を小さくするなどの処理をしているようです。これらのちょっといかがわしい操作をすることによって、ハイライトやシャドーがつぶれにくくなり、後処理の耐性がぐぐぐっとあがるようになります。これが、HLG撮影の中身です(だと思っています)。

下図にHLGで撮影した夜間の素材を示します。左が処理前、右が処理後です。上段下段ともにシャドー部も潰れたりせず階調が残っています。上段では、左の葉っぱの色相を大きく変えていますが色の破綻は見られませんし下段でもハイライト、シャドーの色を転ばせても不自然な潰れは見られません。すごいですね!

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HLG撮影した素材による後処理の耐性 (左)処理前(右)処理後

ロイヤリティーフリーな音楽

最近、著作権にはめっぽううるさくなりました。もちろんYoutubeにアップロードする動画が著作権を侵害していると収益化ができません。ですからYoutuberは著作権侵害の申立が起こらないよう、著作権が放棄された音楽を使います。しかし、著作権がない音楽はクオリティが低かったり、あるいは使いたいジャンルの曲が見つからなかったりすることが多いのです。

そこで、サブスクリプション形式で支払ったり、あるいは曲ごとに楽曲を買った人には著作権侵害の申立をしませんという形式の楽曲提供会社が増えてきました。作曲者は著作権の放棄をせず、会社へ委託。委託された会社は楽曲使用者からお金を取り、著作権者に支払う形式です。有名な3社を下表にまとめていますのでご参照ください。今回の超会議U30で上映していただいた星鍋動画も、Epidemic soundの楽曲を使用しています。

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終わりに

天リフ超会議U30、とても楽しんで発表させていただきました。資料が色々不足があったかなと思いましたが概ね喋りたいことも喋りましたし、これからたまに手を上げて発表させてもらえたらなとちょっとやる気が出てきました。

アンケートの結果からは、発表の長さは丁度いいよって考えられて視聴されている方が多かったみたいですが、発表する側としては12分は短いなと感じました。もっと要点を絞って話をしても良いんですが、それだと誰も興味のないHLG撮影の話を延々とすることになってしまいます。一方で、今回あつかったトピックは星鍋動画というより動画全般の話になってしまい、「星鍋動画」だからこそ気をつけるべきことなど、掘り下げた話ができていなかったことが残念です。

もし次回、超会議に出させてもらえることができたとしたら、また別なトピックで突っ込んだ星鍋動画とか、あるいは、本ブログでワタクシが良く書いてるでっち上げ天文文学とかについて喋ってみたいなと少し企んでおります。

大変良い機会を用意していただきました山口大編集長、ありがとうございました。


  1. もちろん、Pro-Res RAW、Blackmagic RAW、Cinema DNGなど、動画をRAW撮影することはできますし、動画のRAW撮影は大きな意義があります。