TL; DR
やあ同志諸君、ぐらすのすちです。将来の夢は星治将校です。本稿では、星の眼視用にNikonのMonarch 5 8x56を買いましたので簡易なインプレッションをお伝えいたします。
馬鹿野郎!! この軟弱者が!!
馬鹿野郎!!
冷却CMOSだとか冷却CCDだとか、そんな高度に文明化された技術を使って画像を撮影して「天体観測しました~」「今日の写真は5年に一度の出来で、会心のイチ枚です」「淡い分子雲をブイブイにあぶり出してみました」なんてヘラヘラして、この軟弱者が!!
天体観測ってのは、放射冷却で氷点下になった観測地で白い息を吐きながら対象を目で見て、感動する。そういうプリミティブなものだろう!!! どうやら、今回は体験談を語らなければなないようだな……。
あれはワタクシの……いや、俺がまだ幼稚園だったころの話だ。まだ幼かった俺は、幼稚園のクラスメイトAと砂場で五稜郭を作りながら、肉眼で見える天体の話をしていた。もう退園時間間近の夕方のことだった。
Aは、大抵のメシエ天体は眼で見える。M51だって眼で見える!と豪語しており、俺は、「そんなはずはない」「嘘をつくな」と反論していた。小1時間問い詰めたのだが、しかしながら、Aはその舌鋒を収めなかった。「帰りの会を催す特措法」に基づいて園児に集合を命じた幼稚園教諭Tとクラスメイトの前で、やつは、M51が肉眼で観測可能だということ、その理由をプレゼン……いや、アジ演説を始めた。
「同志ぐらすのすちはM51を肉眼で見ることは出来ないと主張している。確かに実視等級が8.36だが……」
静かに語り始めたAの言葉に聴衆は耳を傾け始めた。嫌な傾向だった。俺は焦った。
「実視等級が8.3某だったら、肉眼で見ることは出来ないじゃないか。我々は6等星までしか肉眼で見ることはかなわない」
Aはフフンと鼻で笑って、人差し指を振った。
「確かに、何も使わずに眼では見えないかもしれない」
「だが、これを使って見てはどうかね?」
「道具を使わないヒトはサルと同じさ」
Aは懐から双眼鏡を取り出していた。俺は目の前が真っ赤になった。「この西側の犬め!」「プチブル!」と俺は叫んだが、聴衆はやつの味方だった。教諭Tは「そうかつするよー」と園児を集め始めた。
「キエエエエエエエエーーーーーーーーー!!!!!!!!」
旗色の悪さを悟った俺は奇声を上げてロッカーへ突っ込み、ゲバ棒と半ヘルを持ち出した俺は、Aに正対した直後になにかにふっとばされた。
迎えに来た祖父が、怒張した右腕を振り抜いていた。
「ぐらすのすちよ、わしはお前をなぐらなければならぬ」 「歳をとると眼が悪くなって、眼視は楽しめなくなる」 「肉眼でみるよりも双眼鏡や望遠鏡を使ったほうが感動は大きいのじゃ」
ロッカーに叩きつけた俺の前で祖父は仁王立ちになり、静かに語った。「あとな、」
「内ゲバはダメ」
まとめます。
眼視という贅沢
以前どなたか覚えていませんがTwitterに「眼視は若いときにこそ楽しむもの」と書いていて。「おお~大変含蓄のある言葉だなあ」と感心した覚えがあります。やはり、若いときの頃に星を直接眼で見たほうが、感性がみずみずしくてより感動するんだろうなと思ったのですが。更に続けて。「歳を取ると月を見たときに飛蚊症なのかクレーターなのかわからなくなる」旨が。世知辛い。
どうしても歳を重ねると、網膜の汚れに起因する飛蚊症、水晶体の白濁に伴う白内障が進行するので、本当にクリアな視界を楽しめるのは若いうち、っていうのはよくわかります。今のうちの贅沢を楽しむべきです。幸いにして、あまり勉強してこなかったワタクシは両目とも視力は1.0~1.5あります(日によって変動するので)。
クドクド書きましたが、前回天城高原に行ったとき、だぼさん(@dabo_pic)に双眼鏡を覗かせてもらいました。そのときに欲しくなってしまった、というのが大きな理由です。
双眼鏡を覗いても右目と左目の視野が同一にならずいつもチグハグな見え方しかしなかったので、これまでずっと双眼鏡は敬遠してきました。が、最近会社の業務で実体顕微鏡を覗くことが多く、その際に特訓して左右の視野を同一にするコツを掴みました。これで双眼鏡による眼視を行う準備は万端です。
情報収集の巻
天体界隈だとぼすけさん(@BosqueRicoJapan)が精力的に双眼鏡関連の動画をアップロードされていて大変参考になりました。倍率8倍、口径42mmが標準的に使われることが多いというのは今回始めて知りました。
ふむふむ……ライカ、ツアイス、スワロフスキー……聞いたことがあるメーカーです。サイトロンも出しているのか……フムン。決めました。最近元気がないので、ニコンを応援しましょう。モナークシリーズのどれかかなぁ。
新宿にあるニコンプラザにお邪魔しました。「モナーク5の8x42と8x56を覗かせてもらいたいのですが」とお願いすると、出してもらえるとのことで少々待つことに。館内を徘徊すると、フラッグシップモデルのWXがデーンと窓際に安置されています。めっちゃでかい。めっちゃ重い。
覗かせてもらいましたが、WXはさすがのフラッグシップモデルでした。覗いた視野には漏光はもちろんなし。意地悪をして傾けたりすると、ちょこっとだけ見えます。倍率色収差はコントラストが高い場所、たとえば黒っぽいビルと空の境目で少しだけ見えますが、ほとんど気にならないレベルです。軸上色収差、歪曲収差も見られず。点光源がないため、コマ収差は評価できませんでした。
WXを覗いて少し待っていると遊んでいると、お姉さんが大量の双眼鏡を持ってきてくださいました。モナーク5 8x42、5 10x42、5 8x56、7 8x42、HG 8x42、EDG 8x42と頼んでもいない双眼鏡までわんさか1。
順繰りに覗いていくと、やはり価格帯によって確かに結像性能が改善していくのはわかります。が、そこまで大きく改善しないかなという印象です。5 8x42でも十分に満足できると思います。正直に言えば、見比べなければ色収差に関してはEDGとWXの違いがわかりませんでした。ただし、WXのヌケの良さは素晴らしく良かったのは確かです。アッベケーニッヒは反射面が一枚少なく、反射面全てが全反射になっているのでヌケが良いとぼすけさんが解説していた通りで、明るさ・コントラストともにWXはダントツでした。
色収差はどれも実用上は遜色ない。明るさと、大きさ、重さが違うけど、移動は車だし、どうせ三脚に乗せるから重さは比較しない……。ニコンプラザのお姉さんは星見で淡い対象も見たいなら明るいほうが良いですよと。そうなると、決まりました。
きめました pic.twitter.com/uoxlg54AM4
— ぐらすのすち (@GLASnSCI) 2021年3月13日
Nikon Monarch 5 8x56を買いました
キミにきめた!買ったのは、Nikon Monarch 5 8x56です。瞳径は7mmとほぼ暗所でのヒトの瞳と同じ大きさなので、暗いところでもバッチリ見えるはずです。
これを買いました pic.twitter.com/bpQP9oYtyj
— ぐらすのすち (@GLASnSCI) 2021年3月13日
外観を一通り紹介します。一番気に入っているのは....…ネダンダ(前にも書いた気がする)
実際の見え味
スマートフォンカメラでコリメート撮影した結果です。スマートフォンのカメラでは流石に星は暗すぎて映らないので、昼間の映像になります。また、昨夜観測した結果では、カノープスを確認することができました。自宅からだと緯度的にはカノープスが見えるはずでしたが、高度が低くて光害に埋もれてしまいこれまで見ることが出来ませんでした。しかし、双眼鏡で覗くと、くっきりとオレンジ色の点が見えて感動しました。
まとめ
以上、本稿ではNikonのMonarch 5 8x56を買いましたので簡易なインプレッションをお伝えいたしました。若干色収差があるのと、周囲では像の流れがありますが、実用上は気にならないレベルで、いい買い物だったと思います。
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頼んでもいないと書いていますが、悪いことではなく良いことです。色々と比較することができて大変助かりました。↩