TL; DR
glasnsciです。ソフトフィルター的な役割を果たす、ケンコーのブラックミストフィルターNo1を買いました。ハイライトがふんわりとしてなんかいい感じに見えます。
ケンコーのブラックミストフィルターを導入。色んなブログで書いてある効果で原理がわからないのがあるけど、しばらく前にめちゃくちゃ流行ったらしい。しらんけど pic.twitter.com/v8OSBNuFzt
— ぐらすのすち (@GLASnSCI) 2020年8月7日
きもの展の宣伝
写真に関わること以外にもワタクシには趣味があります。何を隠そう、博物館めぐりです。
昨今の新型コロナウイルス情勢の関係で、かなりの数の博物館の展示が中止に追い込まれました。「来場者が見込めないから」以外にも「展示物の収集ができない」など、深刻な事態です。天下の国立東京博物館(通称:トーハク)も4月から6月の会期で予定していた「きもの展」の会期を変更。6月から8月となりました。最終日は8月23日。先日、会期を終えました。
ワタクシも本日竹馬友達の同期Nと一緒に観覧してきました。
こういった博物館の展示は普段興味を惹かないような展示を見に行くのも面白いものです。博物館も裾野を広げようとメインの目を引く展示物だけではなく、普段博物に興味がない人も楽しめるように付随する様々な法度書や小物類などを展示しています。行けば行ったなりに楽しめるのです。
それはさておき、きもの展は会期予定が発表されてから、ずーっと行きたかった展示です。ワタクシ、絵画や陶器には興味がありません。が、絵画的な服飾に関しては、大いにあります。ぶらっと行ってこられたこれまで気軽に行ってこられた特別展とは異なり、今回は時勢の関係で要予約でありなかなか厳しい中ですが、博物館もかなり頑張っていたようです。これまでは兵馬俑や火焔土器の特別展を見てきましたが、華やかさではきもの展が段違い。
これまでは顔真卿の展示が最も面白いと思っていました。が、こと一般に受けるかどうかという点に関しては、きもの展に軍配が上がるでしょう。
ソフトフィルターの重要性
本題です。
近年、カメラとレンズの性能は著しく向上しました。諸収差が徹底的に抑制されてゴーストやフレアも減り、写りはここ10年でも圧倒的に進化したのではないかと思っています。逆に、レンズ単体ではオールドレンズのようなふんわりした描写が楽しめなくなってきたということもできます。
オールドレンズをどのように定義するかは、とりあえず置いといて、なんかふんわりと描写するレンズとしておきましょう。オールドレンズのふんわり描写は概ね球面収差で発生していることが多いですよね。逆に、最近のレンズは球面収差がよく補正されているため、このような描写を楽しむにはソフトフィルターをかませる必要があります。
ぶらぶらとネットの海の波に揺られていると、ケンコー・トキナー社(以下ケンコー)のカタログを発見。
普通のソフトフィルター、ケンコーで言えばフォギーやソフトンはガラスの表面に凹凸が形成されています。これらの凹凸に光が散乱によって光が拡散することでソフト効果を得るようになっています。他方、ケンコーではまた違ったフィルターを発売しており、ガラスの内部に微小な拡散剤を入れた、ブラックミストNo.1(以下BM1)というフィルターを出しています。BM10は回折を利用したものです。
散乱と回折
散乱
備忘がてら、ちょっと復習します。波長の光が直径の粒子に当たるとき、散乱が発生します。散乱にはいくつか種類があって、
- 幾何学的散乱 (→幾何光学的な散乱:反射や回折など)
- Mie散乱
- Rayleigh散乱
と散乱の種類が分けられることを教わったと思います。ソフトフィルターで発生する散乱は、表面粗さが波長程度ないし波長より大きいのでMie散乱することになります。Rayleigh散乱では、散乱光は波長の4乗に反比例するので短波長ほど強く散乱されますが、Mie散乱ではすべての波長が等しく散乱されます。雲を構成する水滴はμmからμmのオーダーであるため、ちょうど波長程度で、Mie散乱で散乱されます。そのため、雲が白く見えるのです。
回折
光路上に何らかの障害物が置かれているときに、光は障害物の際で陰の方向に回り込み陰を明るくします。一般的には開口部の際で回り込む現象を想像することが多いです。これを回折と言います(フィルターでの回折は受光素子までの距離が十分にあるためFraunhofer回折として考えていいんですよね?)。長波長の光(赤や橙など)ほど回折しやすく、短波長の光(青や紫)ほど回折しにくいという性質があります。また、開口部が小さいほど解説します。Abbeがレンズの分解能(弁別可能な最小の物体の大きさ)を開口数と波長によって以下のように定義しています
ブラックミストNo.1
買ってから知ったのですがBM1は回折を利用した独特な描写が一時期(わりかし最近)一世を風靡したようで、ケンコーで在庫がなくなるほどだったらしいです。有名なフォトグラファーが紹介して人気に火がついたとか。また、触れ込みも「かつて映画などで使われていた」などと書いてあります、なんでも画面全体が白っちゃけてしまう(波長依存性がない)通常のソフトフィルターに比べて、BM1ではハイライト部分だけを落として、明暗のコントラストをへらすことができるから、という理由だそうです。
回折には波長依存性があると言う話は先程しました。私が期待していたのは、BM10で撮影した画像では、コントラストが高い部分に若干の赤ハロが見えるようになるだろう、ということです。
能書きが長くなりましたが、撮影結果を掲載します。
赤ハロ、ないやん……。赤ハロがない。なんでないんや……。
- 十分な拡散剤がない
- 赤い回折光が重なり合って十分な強度を得られるほどの拡散剤がない。拡散剤をたくさん入れればいい?あるいは拡散剤の大きさが足りない?
- 拡散剤が小さすぎる・少なすぎる
- 回折ではなく、Mie散乱の領域にある可能性。多分ない。目に見えるほどの大きさだし。それにしてもある程度の大きさか個数がないと十分な強度を持たないような気もするけど、それに達していない?
色々考えられますが、なんでなんでしょうね。とりあえず、作例の続き。
やっぱり、ふんわりします。ちなみに、ここのコーヒーはすごく美味しいです。撮影場所は、眞踏珈琲店(東京都千代田区神田小川町3-1-7)さん。店内に本棚もあっていいところです。静かだし、よく博物館の図録を持っていって眺めています。
coffeemafumi.html.xdomain.jp twitter.com
ガッツリハイライトが入るような夜景の場合にどうなるのかと言うと、こんな感じ。ちょっと入り過ぎかもしれない。ソフトフィルターよりは効果弱いけど……。
Tiffenのフィルターに早速浮気しようかしら。
出典:谷田貝豊彦、光学、朝倉出版、初版第1刷(2017年5月25日)、p148、pp.221-228